静岡地方裁判所沼津支部 昭和55年(ワ)164号 判決
原告(選定当事者)
瀬戸行男
外一一名
右原告ら訴訟代理人弁護士
福地明人
沼澤龍起
小川良昭
細沼賢一
田中晴男
田中薫
被告
小泉・アフリカ・ライオン・サファリ株式会社
右代表者代表取締役
小泉和久
右訴訟代理人弁護士
石川秀敏
阿部昭吾
内田文喬
原告(選定当事者)目録〈省略〉
選定者目録〈省略〉
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告らのために、別紙土地目録記載の土地における富士自然動物公園の営業を停止せよ。
2 被告は原告らのために、前項の自然動物公園において被告が管理する別紙動物目録記載の動物を除去せよ。
3 被告は、原告らのために、別紙土地目録記載の土地上に存する別紙建物目録記載の建物、工作物を収去せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一請求の原因
1当事者
(一) 原告ら及び選定者ら
原告ら及び選定者ら(以下総称して「原告ら」という。)はそれぞれ別紙原告(選定当事者)目録及び選定者目録記載の住居地に家族と共に居住し、これまで自ら及び家族・付近住民の生命身体の安全と健康を保持し、富士山麓・駿河湾を中心とする恵まれた美しい自然環境を保全するため、住民としての責務を自覚し、かつ尽力してきた者達である。
(二) 被告
被告は動物園の経営を目的とする株式会社であり、昭和五五年四月二三日以降別紙土地目録記載の土地(七六万七九八二平方メートル)上にライオン五〇頭・トラ二五頭・ゾウ一〇頭など計三五〇頭の動物を放飼いにし、料金を徴してこれを観客に見物させる自然動物公園と称する「ライオン・サファリパーク」を設置し、営業している。
2法的根拠
(一) 人格権
人はだれでも、自らの生命・身体の安全や精神的自由を侵害されることなく、平穏に、かつ幸福に生活する権利を有する(憲法一三条、二五条)。
この権利は、各人が人間として生存するうえに最も基本的なものであり、その理念は私人間においても尊重されるべきものである。
このような個人の生命・身体・自由及び幸福に生活する権利の総体が人格権と呼ばれる。そして、これに対する侵害行為があつた場合、単に事後的に救済するだけでは不十分であつて、侵害に対する事前の予防ないし排除の請求権が認められなければならない。
被告動物公園の場合、後述のように、
(1) 動物の糞尿を直接地下に浸透させ、また一部は不十分な浄化処理のままで地下水へ浸透させ、そのためウイルス・バクテリアの混入により、原告らの飲料水源が汚染され、ないしは汚染されるおそれがあり、
(2) 東海大地震が切迫しているといわれている現在、地震による被告動物公園の破壊の危険性は極めて大きく、これによる猛獣の逃亡、襲来のおそれがあるという、正に、原告らの生命・身体に対する差し迫つた侵害の危険が生じている。
よつて、これらの危険から原告らの生命・身体の安全を守るため、人格権の妨害予防請求権に基づき、被告動物公園の営業そのものの停止、猛獣その他の動物の除去等を求める。
(二) 環境権
何人も良好かつ快適な自然環境を享受する権利を有する(憲法一三条、二五条)。
そして、私的生活利益侵害の可能性のある環境破壊に対しては、私的生活利益の集合概念としての環境権を根拠にその排除を求めることができると解すべきである。
原告らの生活地域は、富士、箱根、伊豆の山々と駿河湾に囲まれた気候温和で風光明眉なところであり、そこには富士山の裾野とそこを水源とする清冽な柿田川の湧水がある。この良好な自然環境は、祖先以来原告らの生存の基盤となつている。
被告動物公園は、後述(3ないし6)のとおり、地下水を汚染し、交通渋滞を惹起し、植生その他富士山麓の自然を破壊し、静穏を乱そうとしている。
よつて、原告らは環境権に基づき、被告動物公園の営業の停止・動物の除去・建物その他の工作物の収去を求める。
3地下水汚染に伴う原告らの被害
(一) 被告動物公園で飼育される動物の糞尿中には、人畜共通伝染病の病原体(ウイルス・バクテリア・原虫類)の存在する蓋然性がある。
(1) 右動物のうち、ゾウ・ライオン・トラなど外国産野生動物の糞尿中には、トキソプラズマ、ヘパテイティス等多種類の病原体(ウイルス・バクテリア・原虫類)が存在する。
(2) 動物検疫の非有効性
動物のうち、羊・やぎ・ラクダ・ポニー・シマウマ・キリン・ロバは(法定の)検疫の対象であるが、ライオン・トラ・ゾウ・サイ・クマ・ハイエナ・ダチョウ・オーム・インコは非検疫動物である。
被告動物公園園長佐藤久男は、非検疫動物については九州自然動物公園において自主検疫がなされており、動物は、すべて法定又は自主の検疫を通過しているから病原体を保有しないとするが、次の点で疑問である。
イ 動物には病原体を保有しても症状が出ない状態(不顕性感染)がある。例えば、トキソプラズマ病、ロタウイルス、ポリオウイルス(日本脳炎)、オーム病(慢性)、レプトスピラ病等については不顕性感染が多く、症状がなければ検疫を通過してしまうことになる。
ロ 病原体によつては、動物にとつて病原体ではないが、人間に感染して人間にとつて病原体となる小児マヒのポリオウイルス、サルモネラ菌、炭疽病のバクテリア、ブルセラ病の病原体も存在する。動物検疫のための係留は、その係留期間中にその動物にとつての病原体を保有すれば、発病するであろうことを前提になされるのであるから、当該動物にとつて病原体でない以上、人間や他の動物にとつて病原体となるものの発見には無力である。
ハ 自主検疫は法定検疫のうち、目的地における着地検疫に相当し、係留期間は短く、かつ、これが実施の有無についても明らかでない。さらに、被告動物公園には、サイ・プレーリードッグ・チンパンジーなどのように外国から直接搬入されて法定の検疫又は自主検疫さえ受けない数多くの動物がおり、そのうち現に「病死」しているものも少なくない。
このように、トラ・ゾウ・サイ・クマ・ダチョウ等、被告動物公園において主流を占める動物の多くがいずれも法定の検疫の対象でない上、自主検疫の実施の有無も明らかでなく、かつ検疫自体が何ら絶対的なものではない点から、動物の糞尿中に病原体の存在するおそれは十分にある。かようにして、水系汚染のおそれが多大となる反面、病原体が存在しないという証明は全くないのである。
(二) 汚物処理の不十分なこと
(1) 被告動物公園内においては、一日平均、動物の糞約一八五九キログラム、尿約一二三九キログラム、入園者及び従業員の汚物合計約七七六キログラム並びにその他の生活排水が排出される(この数量は開園時の動物の計画頭数に基づき算出されたもので、開園後動物の現実の頭数もずつと多くなつている)。
(2) 右排出物のうち、放飼い状態での動物の尿はすべてたれ流され、地下に浸透する。しかも、動物の糞は、被告の処理計画によれば、その九割を回収することになつているものの、その回収方法は、二、三人の従業員が広い敷地内をほうきやシャベル、チリ取り、バケツ等で掃いたり拾つたりするというもので、到底目標どおり回収し得るものではなく、現実には、スコリアや溶岩の表面に動物の糞が付着しており、これが雨水に溶けて地下に浸透する量も多く、右九割回収の目標は達成されていない。
そして、これらたれ流される糞尿中に病原体が存在する場合には、病原体は雨水と共に地下に浸透して、地下水脈中を流れ下ることになるのである。
被告は隣接する「忠ちやん牧場」の水質に異常がないから、被告動物公園においても地下水脈に影響はないと主張するが、以下述べるように疑問がある。
イ 被告動物公園と「忠ちやん牧場」の地質構成は、その生成の時代も質も異なつている。すなわち、表層地質につき、「忠ちやん牧場」側は湖沼二次堆積層やローム層が厚く分布しているのに対し、被告動物公園では薄く、また、「忠ちやん牧場」側の溶岩層は平塚溶岩層であるのに対し、被告動物公園では鑵子山溶岩層及び日本ランド溶岩層となつている。このように表層地質さえ異なつているのであるから、柿田川伏流水の水源に連なる地下水脈の通る地表下一二〇メートルまでの地質が同一であるはずがない。
ロ 被告は地表五メートル以下の地質について、「深井戸資料からも判明するように、表層だけでなく、それ以下約二〇〇メートルまで同一の地質構造をなしている」というが、深井戸資料の内容及び深井戸の位置は全く明らかにされておらず、およそ、合理的、科学的な根拠のあるものとはいえない。
ハ 「忠ちやん牧場」における水質調査の結果は参考にならない。けだし、同牧場の観測井の位置が明らかでないし、同牧場における牛、羊の糞尿と被告動物公園における動物の糞尿とは、これに含まれるバクテリア、ウイルスの種類、数量ともに比較にならない。殊に、「忠ちやん牧場」ではウイルスや原虫類についての検査を全くしていない。
(3) 舎屋内動物の糞尿や入園者及び従業員の汚物については、別紙第一図面記載の処理施設でBOD平均五PPM・SS平均五PPMにまで処理(三次処理)し、その処理水一日平均約四八〇立方メートルのうち、約三四〇立方メートルを動物舎用水等に再利用し、残り一四〇立方メートルはスプリンクラーにより放飼い区域を含む敷地上に散水し、地下浸透せしめられている。
しかしながら、右処理システムには以下の問題点がある。
イ 「三次処理」とはいつても、それはBOD及びSS除去のためのものであつて、ウイルス・バクテリア・原虫類等の除去には有効ではない。塩素殺菌は大腸菌等の腸管バクテリアには大きな効果があつても、その外の一般細菌や原虫類に対する効果は劣り、殊にウイルスに対する効果は極めて小さい。
すなわち、ウイルスの滅菌について、現在、完全な方法はなく、塩素殺菌法はある程度ウイルスの「不活性化」には役立つが死滅させることはできないのである。なお砂ろ過法や活性炭処理法はウイルスには効果が乏しいとされているところである。
ロ 腸管バクテリアについても右処理施設により完全に死滅するといえるかどうかに疑わしい。すなわち、立入調査の際の大腸菌の検出方法は、五本の試験管に一〇ミリリットルずつの処理水を採出して、これを培養液に注入するという簡易な方法によるものであるが、微量の大腸菌の検出方法としては不十分であり、むしろ一〇リットル単位の処理水を採取して三、四時間かけてフィルターを通過させた上で培養液を用いるメンプランフィルター法によるべきである。
ハ 右処理施設が適正に運転されていないのではないかとの疑いがある。
まず、その処理能力は開園時における動物の数を前提にしており、それよりも数の増えた現在、処理能力の数値の前提を欠くことになる。
次に、施設を適正に作動させるとすると、スプリンクラーによる定期的な散水(一日一四〇トン)がなされるはずであるが、散水状況を見た者がいないし、そもそも、被告動物公園は富士山の裾野(海抜八〇〇ないし八五〇メートル)に位置し、冬期は寒冷のため、地表は凍結するし、また、降雪もあり、そのような場合に散水は不可能なはずである。
(4) いずれにせよ、地下浸透にまかせて、地下水脈に処理水を流すという汚水処理方式は日本中に一か所もないし、あつてはならないものである。
(三) 被告動物公園内の地質
(1) 被告動物公園の敷地一帯の地質は富士山の溶岩や火山砂礫(スコリア)により形成され、土壌は極めて薄い。殊に放飼い地域は、森林伐採、舗装、フェンス等の構築のため、土壌がはがされ、スコリアや溶岩の露出しているところが多い。
(2) 被告動物公園敷地の地下一二〇メートルのところには、柿田川水源に連なる地下水脈が通つているが、(1)の地質のもとでは地下透水性が高く、地表の水、したがつて、尿や雨水に混じつた糞がこの地下水脈に達するまでには四八時間しかかからない。このことは、この地域の雨量が多く、湿度が高いのにもかかわらず表流河川がなく、その現状が火山灰地となつていることからも明らかである。
しかも、右降雨量に加えて、前記スプリンクラーによる定期的散水により、土壌中にいわゆる「水道(みずみち)」ができて、更に浸透速度が早まつているはずである。
したがつて、土壌中のバクテリアによる浄化作用や、土壌の粒子による吸着作用はほとんど期待できない。仮に、吸着作用がみられるとしても、一定期間経過後は、吸着能力が極端に落ちることになる。
(四) 地下水脈の経路と配水
(1) 被告動物公園付近を涵養地とする本件地下水脈は裾野市、長泉町を伏流し、清水町所在柿田川の起点に至つて湧出している。この地下水脈流路の地表には、裾野市の一部地域に配水される水道水の取水地である須山・下和田・御宿・石脇の各水源地、長泉町全域の水道取水地である裾野市富沢、長泉町上土狩、同町納米里、同町元長窪(二か所)所在の五浄水場、三島市の一部地域に配水される水道水の取水地である裾野市伊豆島田水源地がそれぞれ存在して地下水をくみ上げている。また、湧水地である泉水源地は、沼津市・三島市・熱海市の一部・清水町全域・函南町の一部に配水される水道水の取水地である。これらの取水地には一般の上水道のような浄化設備は全く設置されておらず、わずかに水道法で定められた配水の末端で0.1PPMの残留塩素を検出するという要請を満たすだけの塩素殺菌がなされるのみである。
(2) 原告らのうち沼津市・三島市・裾野市・清水町・長泉町・熱海市・函南町に住所を有する者(別紙選定者目録17ないし132・135ないし139・141・142・151・153)は、前記(1)の取水地から配水された水道を飲用・生活用水として使用している。また、その他の地域に住所を有する原告らは、これら沼津市等の地域に職場を有し、休日以外には右取水地からの水道水を飲用している。
(五) 共同立入調査の結果
(1) 本件地下水脈上に六個の観測井が作られ、関係県市町の組織する富士自然動物公園調査連絡協議会の定期的な共同立入による水質検査がなされている。これらの井戸をその上流から下流に向けて順番に並べると、富士急四号井戸、動物公園二号井戸、同一号井戸、忠ちやん牧場井戸、須山水源井戸、下和田水源井戸となる(なお、動物公園一、二号井の位置関係は、別紙第二図面のとおり。)。
(2) 共同立入による水質調査結果中、PH値(糞尿による汚染を計るに相当な基準)については、別表Ⅰのとおりである。
これによると、各井戸の中で、いずれの時期においても動物公園井戸が最も汚染されており、水質基準に関する基準値であるPH5.8ないし8.6の最上限をほとんど超えている。
次に、一般細菌については、別表Ⅱのとおりである。
これによれば、動物公園井戸より上流の富士急四号井からは一度も一般細菌が検出されないのに、動物公園内の井戸からは三度、その下流の下和田水源からは一度検出されている。
(3) さらに右共同立入調査以外の企業(被告)又は県による水質検査中、PH値については、別表Ⅲのとおりである。
これによると、PH値8以上を示した回数は、富士急四号井五回、動物公園二号井五回、忠ちやん牧場井三回、須山水源一回、下和田水源一一回に対し、動物公園一号井は二三回と極端に多いことがわかる。
同様に、一般細菌については、別表Ⅳのとおりとなる。
これによると、動物公園一、二号井からは、開園後一〇か月を経た段階で一般細菌が検出されており、下流の「忠ちやん牧場」では昭和五八年三月以降六回も、須山水源でも同五七年二月以降四回も、下和田水源でも同年一〇月以降六回も、それぞれ一般細菌が検出されている。
(4) 以上の事実から、被告動物公園の地下水脈にバクテリアが混入し始めており(したがつて、バクテリアよりはるかに小さいウイルスも当然混入している)、その度合いは強まつていて、下流の水脈に影響を与え始めていることが判明している。
4防災対策
(一) 東海大地震の危険性について
(1) 被告動物公園敷地を含む静岡県東部地方は、富士箱根火山帯に連なる日本有数の地震多発地域であり、近い将来マグニチュード8のいわゆる東海大地震が発生する可能性が極めて高い。
国及び静岡県は、右の事実を受けて、地震予知対策及び防災対策に取り組み、国においては昭和五三年六月一五日、大規模地震対策特別措置法を制定し、静岡県においては同五五年一一月二九日、全県下の被害予測を出し、かつ地震予知方法の整備拡充を図り、さらに毎年全県下挙げての避難訓練を実施する等、防災対策に努めている。
(2) 東海大地震は、大平洋プレート又はフィリピン海プレートが日本列島を乗せているアジア大陸プレートの下に間断なくもぐり込むために、後者が海溝に引きずり込まれ、これが一定量に達すると、自ら弾性反動(瞬間的復原)を起こすことによつて発生する巨大地震(海洋型地震)といわれ、御前崎南方沖から駿河湾内にかけての一帯を震源とする巨大地震は安政大地震(一八五四年)以来、現在まで発生していないものの、この経過期間や推定蓄積歪み量その他御前崎から駿河湾西岸にかけての地盤沈降の程度などにかんがみ、その発生時期は切迫しているとされている。
(3) 地震の規模
静岡県の予測によると、被告動物公園付近は震度六の地震が予想されている。気象庁震度階級によると震度六は烈震とされ、それは「家屋の倒壊率は三〇パーセント以下であるが、山崩れが起き、地割れを生じ、多くの人々は立つていることができない程度の地震」と定義されている。
被告動物公園の敷地の地盤は表土・火山砂礫と何層にも重なつた地層を形成しており、このような地盤が地震に弱いことは明白である上、かかる地盤の地震においては各地点ごとに上下左右前後と全く不規則な方向に揺れ動くのが常であり、被告動物公園敷地のような広大な土地にあつては各地点の震動方向は全く予測できず、かつ、外柵などに及ぼす力は単一方向の震動に比し想像を絶するような強い力のものとなる。
したがつて、地割れ、陥没、フキ上げ、山崩れ、地辷りが生ずることになり、しかも、これらは、断層、断層破砕、断層粘土地域でしか発生しないというものではないのみならず、地層の構成(厚みと分布)が牢固でない上、不均一で、地形も起伏が多く、溶岩内には空洞が多い地域でもあるので、特に地割れの危険性が高いといわざるを得ない。
さらに、被告動物公園敷地あるいはその付近には、富士山と愛鷹山の間を東西に走る神縄断層というA級の活動層(一〇〇〇年間の平均変位速度が約一ないし一〇メートル、四万分の一の空中写真の判読で地形線や地形面が切断されているのがわかり、変位の向きが確実に判定できるという、活動度の最も激しい活断層)があり、この活断層の再活動を原因とする直下型地震の発生する可能性も極めて高い。
(4) 被告動物公園付近に地震が生じた例として次のものがある(いずれも震度六前後)。
イ 安政大地震の時に沼津市南小林の黄瀬川の岸が約七メートルの高さで陥没した。
ロ 関東大地震の時に富士山の山肌を大石が地をゆるがしてころげ落ち、御殿場市内の人家は見渡す限り倒壊した。
ハ 北伊豆地震(昭和五年)の時には、田代盆地の火雷神社において南北水平方向に約一メートルの地盤のズレが生じ、中伊豆町の城地区において垂直方向に二ないし三メートルの地盤のズレが生じ、畑地が広い範囲にわたり十四・五メートルの深さで陥没したのを始めとして、二〇ないし三〇センチメートルのズレとか陥没が至るところに生じた。
(5) 静岡県はその被害想定において、県下の各地の危険地域を「軟弱地盤地域」、「津波危険海岸」、「液状化現象危険地域」に区分しているが、被告動物公園の敷地はこれらに含まれてはいない。しかしだからといつて、この地盤が安全だということにはならない。右区分は相当広範囲な面積を巨視的にとらえて定めたもので、危険区域と指定されなかつた地域のなかにも、より危険な地盤の区域が存在することも予想できるのである。
原告らは、被告動物公園の敷地部分という限定された区域の地盤について、その上に設置されたフェンス、外柵、ゲート、動物舎などの特定した構築物とのかかわりで危険性(動物の逃亡)を問題にしているのである。
さらに、静岡県の被害想定(危険度試算)において、被告動物公園の敷地を含む裾野市が被災率一・五(軽度の部類)とされている。しかしながら、右算定の基準とされたのは家屋の倒壊、津波、火災等の危険であつて、原告らが本件で主張している地盤の崩壊、地割れ、地すべりによるフェンス・外柵の倒壊、破損、空隙の発生、ゲートの破損等による動物の逃亡については、静岡県は被害想定の基準にしていない。したがつて、右被害想定は、被告動物公園内の各施設の安全度の確認に少しも役立たないのである。
(6) 地震の完全な予知(とりわけ短期予知)は不可能である。これは気象庁の公的見解であり、静岡県の考え方も同様である。したがつて、地震対策に当たつては、地震の警戒宣言が発せられた場合ばかりではなく、何らの前触れのない突発的な地震発生の事態をも考えて講じられなければならない。にもかかわらず、後述のとおり被告は警戒宣言が発令されることを前提にして対策を立てているにすぎない。
(二) 構造物の安全性について
(1) 震度六の地震が発生すると、前述のとおり、被告動物公園敷地において陥没、山崩れ、地割れ等の地盤の変形が生ずることは必定である。かかる状態の下では構造物、特に動物の逃亡を防ぐ施設である外柵、フェンス等は倒壊するかあるいは空隙が生ずるか、いずれにしても動物の逃亡を防ぐ機能を失つてしまうであろうことは想像するに難くない。
このことは、以下の点から明らかである。
イ フェンスの基礎コンクリートの多くは、N値(標準貫入量)が五以下である軟弱な地盤(ローム層)に設置されているとみるべきである。
ロ フェンスは長距離にわたり、広い範囲に輪上に連結して構築されており、かかる広範囲にわたる地域においては、地震の力の働く方向はバラバラであり、そのうえ、現実の地震においては縦揺れや横揺れ等の複雑な力が働き、単純な載荷試験では計算できない強大な破壊力をもたらす。また、イで述べたように基礎ブロックの地盤の軟弱さを考えると、基礎ブロック自体倒壊するか、あるいは浮上り現象により地盤から浮き上り、最後に倒壊するであろうことが断言できる。
ハ フェンスは支柱で連結され互いに拘束を受けていることから、衝撃の逃げ場がなく、かえつて折れることもある。
(2) 被告が構造物の安全性について挙げている根拠は、次の点において極めて不完全であり、信用できない。
イ 地震に伴う地盤の陥没、地割れ等の地盤自体の変形、及び広範囲に連結されたフェンスの特異性を全く無視している。
ロ フェンスの基礎コンクリートの安全性を検討するのに基礎コンクリートよりはるかに大きな物体である本四架橋の基準を使つている。
ハ ポール、ネット、フェンス等について共振現象の解析をしていないし、フェンスの減衰定数を二ないし三パーセントとせず、鉄筋コンクリート並みの五パーセントの数値を採用している。
(三) 地震時の防災対策
(1) 被告の防災対策は、地震の予知が可能であること、フェンスが破壊されたり空隙を生ずることはないことを前提として、動物をゾーンから動物舎屋内に収容することである。
右防災対策は前述((一)、(二))のとおり、そもそも誤つた前提の下に立てられたもので、何ら対策とはなり得ない。
(2) 地震時には、まず園内の道路の損壊、あるいは道路上の障害物による自動車の走行不能状態、入園車両の事故、入園者の心理的な動揺、さらに地震時における動物の異常行動等が混在し、いわゆるパニック状態が発生することは必定である。
しかるに、被告の防災対策の内容はこれらの事態を全く考慮していない。
さらに猛獣が脱柵した場合に散弾銃やライフル銃を使うという逃走防止策は、前記パニック状況下では危険であり、容易に銃を使用し得ないことも明らかである。
(3) このように被告の防災対策はおそまつ極まりないもので、地震発生により放飼いの猛獣の多くは勝手に行動し、園外に逃走することもまた明らかである。
(四) 被告動物公園から猛獣が逃走すれば、その周辺は山岳地帯であるため発見することすら困難である。ライオン・トラなどは一晩に五〇ないし八〇キロメートル位歩き回るのであるから、沼津市、三島市などの市街地は、その行動範囲内に含まれ、空腹で気のいら立つた猛獣が市街地に侵入したことを想像すると、猛獣による人身の被害の発生とともに、住民がパニック状態に陥ることは必至である。
別紙選定者目録1ないし129、143ないし146の原告らは被告動物公園に近接して居住しており、それぞれ自己及び家族の生命・身体を猛獣により直接脅かされるだけでなく、地震後にも猛獣の影響により被害を被り、若しくは被害を受けるという合理的不安にさらされることになる。
5交通機能阻害
(一) 被告動物公園周辺の御殿場市・裾野市・長泉町・清水町・三島市・沼津市は伊豆・箱根・富士の各観光地帯の中心に位置し、観光経路の要衝となつている上、首都圏と中京・京阪神を結ぶ輸送幹線の通過地点に当たり、右四市二町における通過車両又は滞留車両の数は莫大なものとなつている。
そのため、東名高速道路御殿場インターチェンジは夏から秋にかけての休日ともなれば、ここを経由する約二万三〇〇〇台という大量の自動車により、その機能を完全に喪失し、さらに御殿場市内の道路が交通渋滞で麻痺状態となることも多い。
(二) しかるに、被告動物公園の開園により、被告の予測によつても最高一日四一三一台の自動車が来園することになり、また、他所の自然動物公園の入園者数実績に、右四市二町の周域に分布する人口数を併せ考えると実際には膨大な数の自動車が集中し、その結果、同公園に至る東名高速道路御殿場インターチェンジ、これに接続する国道一三八号線・同二四六号線・県道須山御殿場線などの幹線道路及び幹線道路に接続する各市道は交通渋滞に陥つて、その機能が麻痺し、これに伴い自動車の排気ガスも著しく増大することになる。
(三) 別紙選定者目録1ないし43、143ないし146の原告らは右各道路を通勤・通院・買物など日常生活のための生活道路として利用しており、右交通渋滞によつてこの利用の利益を現に奪われ、あるいは奪われるかもしれないという合理的不安にさらされることになる。3、4ないし8、19、21の各原告らは右各道路に面し、あるいは近接して居住しているから、右排気ガスにより健康破壊などの被害を現に被り、又は被るかもしれないという合理的不安にさらされることになる。
6自然環境、教育的文化的環境の破壊
(一) 自然環境の破壊
(1) 被告動物公園の所在する地域は溶岩流や火山砂礫や火山灰が地表を覆い、その上部は発達した森林で覆われていて、学術的にも貴重な植物の宝庫であつたものである。
すなわち、
イ 火山灰等の堆積の少ない場所では、植物は、落葉やコケがつくつたわずかな土壌に根を張り、岩にしがみつくように生育していた。高木としては、ミズナラ、アカシデ、カヤ、コミネカエデ等が樹冠を形成し、低木としては、フジザクラ、ミツバツツジ、アシタカツツジ、ドウダンツツジ、イヌツゲ等が生育していた。
ロ スコリアや火山灰等が厚く堆積し、水はけの良好な場所では、ミズキ、ミズナラ、ケヤキ等の樹木が高木層を、また、アシタカツツジ、マメザクラ、ヤマボウシ、アカシデ、イヌツゲ等が低木層を形成し、林床にはスズタケがびつしりと生えていた。
ハ 水はけのあまり良くない低地域の多湿地域では、コクサギ、マユミ、ミツバウツギ、サンショウバラ、ゴマギ、ズミ等が生育し、特にサンショウバラはみごとな群落をつくつていた。
ニ これらの植物の中で、富士山周辺しか生育していないといわれるマメザクラ(フジザクラ)、アシタカツツジ、サンショウバラの群落は、この地域の森林植生として、極めて貴重な存在であり、他の樹種と共存しながらこの地域特有の生態系をつくつていた
ものである。
また、柿田川や三島市内の多くの湧水の水源地域と、その森林は水源涵養林として保護されるべきものであつた。
(2) ところが、被告動物公園の開園に伴い、緩衝緑地として保存される一部分を除いた園地部分では、森林の下草や灌木類が刈り取られ、樹木も大部分切り取られた。特に、動物が見せ物になつているゾーンでは植生は変形され、従前の生態系はバランスが崩れて機能を失い、その景観は一変し、特に甚だしい草食獣ゾーンでは、草木類はなくなつて裸地化している。
これらのため、この地域の森林の生物社会を構成していた昆虫や野鳥を始め多くの動物はこの地から追い出され、かつ園内では、植生の更新も妨げられていることは明らかである。そして、低湿地域に自生していたサンショウバラの群落は、もはや、見ることができなくなつてしまつた。
(二) 教育的文化的環境の破壊
(1) 世界の自然は、砂漠やジャングル、あるいはサバンナ、極地、モンスーン地域等多様性を持ち、これらは固有の気候、風土を形成し、動植物をはぐくんでいる。そして、それらをありのままに理解させることが、本来の自然教育というべきである。
ところが、被告動物公園は、動物本来の生態などを全く無視し、自然教育に役立つと世間を偽つて形がい化し、野性を失つた動物を、破壊した自然(偽の自然)の中に放飼いにし、見せ物とする営利だけの施設であるといつても過言ではない。
(2) 富士山は古くから信仰の山として地元民に多大の精神的文化的影響を与え続けてきたものであるが、その富士山にライオンやトラを放飼いにするという被告動物公園の暴挙は、伝統ある地元文化を無視した行為であり、富士山を大切にしたいという大多数の日本人の純粋な気持ちまでも踏みにじつているものである。
7以上の次第で、原告らが現に被つている侵害及び侵害のおそれ、不安は、被告の営業の停止、動物の搬出、土地工作物の収去によらなければ、解消されないものである。
よつて原告らは被告に対し、人格権、環境権に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。
二請求の原因に対する認否並びに被告の主張
1請求の原因1の(一)は不知、(二)は認める。
2同2は争う。原告ら主張の「人格権」、「環境権」は私法上の権利として法的に確立されてはいない。
3同3の(一)の(1)は否認、(2)は佐藤園長の言明部分は認め、その余は争う。
原告ら主張の病原体の多くは日本において発症の事例がなく、たまたま一部の病原体による発症があつても直ちに発見処理され、伝播を未然に防止し得ることが従来の動物園の例で実証されている。
被告動物公園における飼育動物の相当部分が「九州アフリカ・ライオン・サファリ」から移入されたものであり、これらは昭和五一年五月以来、同サファリにおいて厳重に検査され管理されてきた動物である。また、一部の輸入動物は被告動物公園に導入された後約三か月間動物舎に係留され、三名の専属獣医師により糞尿検査を始めとする各種の精密検査を受け、衛生的に安全が確認されてから初めて展示されている。
また、日常の健康管理、衛生管理についても、三十数名の飼育係によつて、糞便の状態、食欲の有無、一般動作、目・鼻・口の状態等が観察され、その結果が毎日飼育日誌に記載されて獣医師に提出されるシステムになつている。さらに、定期的に、全飼育動物について糞尿検査、各種の精密検査を実施し、必要な予防注射も実施されている。
右獣医師らは、日本動物園水族館協会発行の資料や農林省の家畜衛生資料などによつて、これら動物が感染するおそれのある病原体、発症の可能性のある病気、その予防法、治療法等の実際についても十分な研究を遂げており、かつ、前記飼育係と共に、被告動物公園開園前に、「九州アフリカ・ライオン・サファリ」において実務の研修を重ねている。なお公園内に動物診療所並びに、全国の獣医科大学の研究所と緊密な連絡を持つ動物研究所を設置している。
現に、右九州サファリにおいても、また被告動物公園においても、いずれも開園以来今日まで、法定伝染病、人畜共通感染症の発生は皆無であり、常日ごろ動物に接触するため最初に被害を受けるはずの飼育係の感染、発症の例も全く存在せず、原告らが主張する危険性は絶無に等しい。
同3の(二)の(1)は認め、(2)のうち、糞の九割回収が達成されていないこと、糞尿中の病原体が地下浸透すること、「忠ちやん牧場」と被告動物公園とでは地質構成が異なるから同牧場の水質は参考にならないとの点は否認し、その余は認める。同(3)のうちイないしロの問題点の主張を除いて認める。
被告と裾野市間には自然動物公園計画の実施に当たり、昭和五四年一二月二日付け「環境保全に関する協定書」が締結され、これに基づいて設置された富士自然動物公園調査連絡協議会によつて、開園以来今日まで年二回にわたる立入調査が行われ、特に水質関係については、被告動物公園の排水及び公園外の深井戸について経時的検査が実施されており、その検査結果では、水質汚染の指標とされる大腸菌群の検出は認められず、動物公園敷地の地下水に汚染のないことが実証されている。そのゆえんは、被告動物公園内の土壌による自浄作用が有効に働き、かつ、被告の汚水処理施設が十分な効果を発揮しているからに外ならない。
なお、水質の検査方法について、原告らはメンブレンフィルター法によるべきであると主張するが、被告が採つている方法は裾野市との協定に基づく方法であり、しかも排水、井水(飲料水)の検査に広く適用されている公定法であつて、水質汚濁防止法関係、下水道法関係、水道法関係、衛生試験関係等に広く用いられている最適の方法である。原告ら主張の検査方法は、排水の性格上、直ちにメンブレンフィルターの目詰まりを誘起し、多量の検水のろ過は不可能となるので、水質専門分野では実用不可能とされているところである。
被告動物公園敷地内における動物の野外展示は昼間に限られ、その展示時間外は浄化設備の直結している動物舎内に収容されている。しかも、動物の糞尿の排泄はその習性によつて動物舎内でほとんどが行われるし、フィールド内に排泄される糞の九割は飼育係によつて回収されており、たれ流し糞尿の量についての原告らの前提は誤つている。
さらに、右動物舎における動物の糞尿、来園者、従業員の生活排水等はすべて浄化施設で処理され、右施設では一般的にウイルスの除去に効果があるとされている砂ろ過法、活性炭処理方法のみならず、今日ウイルスの不活性化(消毒)法として世界的に最も実用化の高い塩素滅菌法もとられている。
こうした排泄物と処理水はまず、自然界における土壌の自浄作用によつて浄化されるもので、このことは、被告動物公園のと同一地質構成と認められ、かつ、開園以前から存在する隣接の「忠ちやん牧場」の実例で確かめられている。同牧場では長年にわたり牛、馬、山羊等二四〇頭が放飼いにされており、その糞尿は全く回収されずたれ流しの状態であるが、牧場の中央部に存在する深井戸の水は経時的検査の結果異常が認められず、大腸菌群も検出されていない。しかも、右深井戸の水は今日まで従業員、来場者等の飲用に供されてきており、その飲用によつて何らかの病気に罹患したという事実は全くないのである。
ところで、土壌による浄化作用としては、微生物的浄化作用(人畜の腸内微生物が地上に排泄された場合に、たちまちにして土壌に生息する微生物〔おおむね地表から一メートル以内、特に三〇センチメートル以内に生息する〕によつて、その生命あるいは活性を失うこと)、物理的浄化作用(土壌の粒子表面及びその結晶格子間における物理化学的吸着)、化学的浄化作用(土壌のイオン交換能力による吸着)がある。
そして、腸内微生物がたまたま岩盤上に排泄された場合でも、その栄養分の質と量に応じて自ら生物膜が生じ、そこに生息する微生物によつて汚水と共に浄化されるのである。被告動物公園の岩盤露出部分は敷地の極く一部分であるほか、岩盤の下にはローム層、スコリア層が幾重にも重なつていることに留意すべきである。
したがつて、地下水汚染が問題となる条件は、土壌の自浄能力の限界を超える汚濁負荷がかけられた場合か、地下水脈が汚濁源に極く近くまた地下水脈の上昇時に汚濁源が浸漬されるような場合であつて、前記のごとく被告動物公園の極くわずかな動物の糞尿と処理水の散水は土壌の自浄能力の範囲内のものといい得る。
同3の(三)の(1)、(2)は争う。
同3の(四)の(1)、(2)は不知。
4同4の(一)の(1)の事実のうち、東海大地震発生の可能性が論じられ、静岡県下において種々の防災対策が講じられていることは認め、その余は争う。(2)は争う。(3)のうち、神縄断層が被告動物公園敷地に存在すること及びそれがA級の活断層であることは否認し、その余は争う。
被告動物公園の敷地内には地形変更の原因となるべき断層、断層破砕帯、断層粘土等は認められず、その地盤構成は敷地全域にわたり、ほぼ均一に下位から下部溶岩層、下部ローム層、スコリア層、上部ローム層、三次堆積物、上部溶岩層、表土となつており、極めて強固な地盤である。したがつて、地震によつて崩壊等の地形変形を起こすことはあり得ない。
同4の(二)の(1)は否認する。同(三)の(3)は否認する。同(四)は争う。
飼育動物は展示の時間(現在冬期は午前一〇時から午後四時、その余の期間は午前九時から午後五時まで)以外は、肉食動物については必ず、草食動物については原則として、マグニチュード8の地震に耐えられる構造を持つ動物舎に収容されているから危険はない。
もし放飼い中に警戒宣言が発令された場合には、レインジャーを始めとする動物収容捕獲班三七名が放飼い中の動物を動物舎に緊急収容することとし、万一収容捕獲できないときは、危険の度合に応じて射殺することとなつている。
地震動に対するフェンスの安全性について述べると、フェンスは地中に埋め込まれ、コンクリート製基礎(最小で高さ六〇センチメートル、幅一四〇センチメートル、奥行四〇センチメートル)によつて支持設置された鋼製支柱と主柱との間に鋼製ネットを張つた構造となつている。これら支柱それ自体の強度、及びそのコンクリート製基礎を支える支持地盤の地耐力等については、設計震度として水平震度を〇・二、鉛直震度〇・〇を採用し、静的解析(東海大地震によつて加えられる外力に対する解析)を行い、右外力の二倍以上の耐力を有する設計がなされている。
また、地上加速度四〇〇ガルの外力を設定し、かつ種々の形の地震波にも対応できるよう短周期型、長周期型、日本における平均的な地震の周期特性を有する型の各スペクトルを想定入力地震動として動的解析(地震による揺れに対する解析)を行い、これらいずれの型の揺れ、それによる増幅によつて生ずる変位にも耐えられるように設計、構築されている。
また、フェンス設置場所の地盤は強固であり、その地質構成からして地盤上下層の硬度差も少ないので、フェンス支持基盤によつて地震動が大きく増幅されることはない。
なおこのフェンスについては、毎日飼育係が巡回の際その異常の有無を点検し、常時これを保守管理しており、年二回行われている共同立入り調査においても、フェンスについて指摘を受けたことは一度もない。
5同5の(一)、(三)は争う。(二)のうち、予想来園車数が最高一日、四一三一台であると計算されていることは認め、その余は争う。
御殿場インターチェンジあるいは国道一三八号線が交通渋滞で麻痺状態となるのは、行楽シーズンの特定の休日と、太平洋クラブマスターズあるいは富士スピードウエイにおける大レース開催日といつた特定日のある時間帯にすぎない。また、被告動物公園への経路は御殿場インターのみではなく、他に中央高速河口湖インター外四経路があつて、来園車両は分散されている。
6同6の(一)の(1)、(2)は争う。同(二)も争う。
被告は県の認可の条件に従い、被告動物公園の全敷地の六〇パーセントを保存緑地として残し、また移植を指示されたアシタカツツジ等についてはこれを移植し(活着率九〇パーセント)、さらに、右の残余四〇パーセントの地域内においても、できるだけ樹木類を残すように努めている。
第三 証拠〈省略〉
理由
一 被告の動物公園営業等
被告の経営する本件自然動物公園が昭和五五年四月二三日開園されたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らは別紙原告(選定当事者)目録及び選定者目録記載の各肩書住所地に居住していることが認められ、さらに、〈証拠〉によれば、被告は別紙土地目録記載の土地上に、別紙建物目録記載の建物、動物舎を所有し、併せて別紙動物目録記載の動物(ただし、昭和五七年一月三一日現在の頭羽数)を保有していることが認められる。
二 原告らの被害
1水質汚染
(一) 検疫
〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。
(1) 輸入動物のうち、家畜伝染病予防法所定の動物(偶蹄類の動物、馬等の「指定検疫物」)については検疫が義務づけられており、輸出時の検疫、輸入時検疫、着地検疫の三段階の検疫が制度化されている。
(2) 「指定検疫物」以外の動物(ゾウ、ライオン、トラ等)については、被告動物公園を始め国内の動物園で自主的に検疫を実施しており、被告動物公園においては、搬入時に既存の動物と隔離した動物舎に収容し、その間にワクチンの接種、飼付け、気候環境順化を行い、同時に食欲、糞便、健康状態等を観察し、また寄生虫検査(陽性の場合、駆虫剤を投与する)をするほか、必要に応じて各種の精密検査を実施して、伝染性疫病にかかつていないことを確認して野外の観覧展示に供している。
(3) 海外から動物を輸入するに当たつては、伝染病の流行の有無を十分検討した上で、安全な地域からのみ輸入している。
(4) 被告動物公園に搬入された動物のうち、相当部分は傍系会社経営の九州自然動物公園から移入されている。すなわち、開園当初、総合計四三二頭羽のうち、ライオン一五頭(海外からの搬入分)については昭和五一年五月に、ゾウ一一頭(同)については同五二年五月にそれぞれ九州に到着しており、その余のアフリカ、アメリカ産哺乳類一六種二〇一頭、鳥類七種七七羽については同五四年一〇月から一一月にかけて九州に到着し、法定又は自主検疫に合格した後、被告動物公園に搬入されている。
なお、海外から直接搬入されたものは、検疫動物八頭、非検疫動物として哺乳類三〇頭、鳥類一五羽であるが、これらのうち、非検疫動物については、被告動物公園において自主検疫がなされている。
以上の事実を認めることができ、右認定事実によれば、法定の検疫制度のほか、被告動物公園が行う自主検疫の制度が設けられているということができるのであり、かつ、他の動物園と同様の検査体制のもとにあつて、その実施上も、格別の問題点を認めるべき証拠も存しない。そして、他の一般の動物園以上のより厳しい自主検疫を必要とする特段の事情を認めるべき証拠もない。
(二) 衛生管理
〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告動物公園には専属の獣医師三名、飼育係二五名が勤務し、園内に設けられた動物病院、動物研究所において、動物の衛生管理等に当たつている。
(2) 昆虫等の媒介による伝染を防止するため、毎日動物舎内の糞尿、敷きわら、残飼等を搬出し、十分な水で洗浄して乾燥させるほか、毎月一回以上スチームクリーナーで熱湯噴霧消毒及び薬剤消毒がなされる。次に、放飼い場のうち、サファリ道路部分については道路清掃車により糞、残餌(牧草類)を毎日回収し、それ以外の部分については、毎日、作業員が糞と残餌を回収している。
(3) すべての動物について「動物登録簿」が作成され、各動物の習性、前歴、既往症等を把握できるようになつているほか、飼育係は、毎日の衛生管理に当たり、その観察結果を各動物セクションごとの「飼育日誌」に記入することとなつており、その内容は食欲、動作、呼吸、採食・飲み方の状態、排泄物・分泌物の状態、栄養状態、可視粘膜の状態等の広きにわたつている。
(4) 獣医師は、飼育係からの通報、右飼育日誌のチェック、現場の巡回等により動物の異常を発見して、診断、治療行為を行うことになつており、かつ診療日誌に記載される。そして、治療を要する動物は動物隔離室に収容し、完治するまで係留する。
(5) 動物が死亡した場合はすべて解剖され、その結果は、「死亡報告、病理報告」として記録される。昭和五六年度は哺乳類五四頭、鳥類四七羽が死亡し、同五九年度(ただし、一月三一日から一〇月三一日まで)は哺乳類四三頭、鳥類九羽が死亡しているが、伝染病疾病を死因とする死亡例は全くない。また、日ごろ動物と接触している飼育係についても、人畜共通感染症の感染、発症例もない。
(6) 人畜共通感染症のうち、日本国内における発症例としては、炭疽病、プルセラ病、サルモネラ病、トキソプラズマ病があるにすぎず、しかもその大部分は家畜からの伝染であり、動物園での野生動物から人への感染報告例はなく、近年発生したオーム病も、すべて家庭内で飼育されていたインコから感染したものである。以上の事実を認めることができ、右認定事実によれば、被告動物公園における衛生管理体制に不備は認められず、伝染性疾病に対する予防のための体制は整備され、かつ、開園以来、今日まで問題なく経過していることから、飼育動物の糞尿中に、人畜共通伝染病の病原体(ウイルス、バクテリア、原虫類)の存在する蓋然性は存しないということができる。
原告らは「不顕性感染」という状態があるから、検疫を通過して園内に搬入されても安全ではない旨主張するが、「不顕性感染」の動物を原因とする発症例が過去において、どの程度他の動物園等であつたか不明であり、被告動物公園でその例があつたことを認める証拠はなく、「不顕性感染」の生ずる具体的な確率、飼育係に免疫が生じていることその他不顕性感染に伴う危険性についても、これを裏付ける証拠もない。
また、病原体の宿主の特異性、相対性から、動物に発病がないとしても安全とはいえないとの点については、これが発症の具体例、危険性の内容程度をうかがわせるに足りる資料がない。
結局、被告動物公園で飼育されている動物の糞尿中に、人畜共通伝染病の病原体が存在するとの原告らの前記主張はあくまでその可能性を指摘するにすぎず、具体的な危険の程度に達しているものとは到底解することができない。
(三) 排水処理
〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告動物公園内で生じる動物の糞尿、入園者・従業員の生活排水の処理については、(イ)生活排水及び動物舎内の尿は別紙第一図面記載の処理施設で三次処理され(BOD、SSともに、5PPM以下とする)、一部は再利用され、残りは園内の二一台のスプリンクラーにより毎日散水される、(ロ)動物舎及び放飼い場から回収された糞及び敷きわらについては、肉食獣のものは焼却処理され、草食獣のものは地元裾野農協へ堆肥として送られている、(ハ)放飼い場での未回収の糞及び尿はそのままとされている。
(2) 被告と裾野市は静岡県知事立会のもとに、昭和五四年一二月二日、被告動物園事業に関し、「環境保全に関する協定書」、「覚書」を作成した。
右協定の第二条第一項において、被告は事業活動に伴い地下水に水質の汚染が生じることのないよう処理水について、
イ 生物化学的酸素要求量(BOD)は、日間平均5PPM以下とする。
ロ 浮遊物質量(SS)は、日間平均5PPM以下とする。
ハ 水素イオン濃度(PH)は、6.5以上8.5以下とする。
ニ 大腸菌群は、検出されないこと。
の各号に定める水質基準を遵守するものとし、
同条第三項において、被告は、積極的に処理水の水質の改善を図るため、活性炭吸着装置その他の適切な装置を設置するものとし、
同条第四項において、処理水の水質に係る測定項目、測定方法、採水場所その他処理水の水質の測定に関する事項については、別表第一(省略)のとおりとする旨定められている。
さらに、右協定第一二条第一項は、「裾野市は、被告が第二条第一項及び第五条(省略)に規定する事項を遵守していないと認めるときは、被告から事情を聴取し改善措置を指示するものとする。」と規定し、同第一三条第一項には、「裾野市は、前条の規定による裾野市の指示した事項につき、当該指示事項が履行されるまでの間、営業時間の短縮、営業停止その他必要な措置を被告に申し入れるものとする。」旨規定されている。
(3) 右協定(第一一条)及び覚書に基づき、昭和五五年五月二九日、静岡県、裾野市、三島市、沼津市、清水町、長泉町を所属団体とする富士自然動物公園調査連絡協議会が発足し、同年八月六日、第一回共同立入調査が実施され、以後年二回の割合で共同立入調査が行われ、その結果及び被告又は静岡県の水質検査の結果は、共同立入調査報告書の形で発表されている。
なお、第一ないし第四回の各共同立入調査後、右協議会より裾野市長を経由して被告に対し、要望事項が出され、被告よりこれに対する回答がなされている。
(4) 右共同立入調査の結果、並びにその他の協定で定められた被告又は県の水質検査の結果によると、大腸菌は検出されておらず、BOD、SS値は5PPM以下であり、PHについては一部基準を超える(ただし、動物公園一号井につき)例があるものの、おおむね基準内の数値を保つている。
以上の事実が認められる。しかして、本件地下水脈からの地下水を飲料その他の生活用水として利用し、これに病原体が混在する蓋然性があるため人格的利益が著しく侵害されている旨強調する原告らの主張と心情については、もとより理解し得ないではないが、右認定事実によると、被告動物公園は、その開設以来、前記協定書及び覚書所定の基準と方法に従つて、定期的に所定の水質検査をしているのはもちろん、汚染防止、水質保持に努めていて、今日まで格別の問題もなく経過しているものであつて、原告ら主張の被害の蓋然性は、いまだ認め得ないものといわざるを得ない。
2防災対策
(一) 地震
〈証拠〉によると、予想される東海大地震により、被告動物公園を含む裾野市付近においては、震度(階)六の烈震が起こると推定され、気象庁の基準によれば、震度六とは、家屋の倒壊は三〇パーセント以下だが、山崩れが起き、地割れを生じ、多くの人々は立つていることができない程度の地震を指すとされていることが認められる。
そこで、被告動物公園の敷地付近の地質について検討するに、〈証拠〉を総合すると、その敷地一帯は、ほぼ均一に下位から、下部溶岩層、下部ローム層、スコリア層、上部ローム層、三次堆積物、上部溶岩層、表土によつて成り立つており、全般的に極めて強固な地盤であつて、しかも、断層、断層破砕層、断層粘土層の存在しない地域であることが推認できる。
したがつて、震度六の地震でも揺れは小さく、危険度(被害想定)も低いものと予想され、原告らが主張するような地盤の変形(地割れ、陥没等)の生じるおそれはないか、あつても極く微少に留まるものと認めるのが相当である。
なお、同敷地内には、A級の活断層である神縄断層が存するので、直下型地震の危険性があるとの主張についてみるに、〈証拠〉によれば、神縄断層が及んでいるのは、西方は被告動物公園敷地の北東約一九キロメートルの小山町生土沢まで、東方は大井町篠窪付近までであることが認められ、この認定に反する〈証拠〉は、前掲証拠に照らして措信できない。
(二) 構造物の安全性
〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 外柵(フェンス)は二重に設置されており、内側は高さ三・六メートルで、三メートルの間隔をおいて外側に高さ四・二メートルのフェンスが設置され、そのコンクリート基礎(高さ一〇〇ないし六〇センチメートル、幅一四〇ないし九〇センチメートル、奥行七〇ないし四〇センチメートル)は盛土を避けて地山(切土)に埋設されている。なお、右基礎には、豪雨によつて表土が流出して露出することがないように表土流失防止用の土止めを施しつつあるほか、動物のうちクマについては高圧電流を流した電気柵を設置して外柵の補助とし、ゾウ、サイ用には外柵の内側に空堀を設けるなど、大型動物の逃走と、これによる万一の被害を防止するようにしている。
(2) 動物舎は鉄骨鉄筋コンクリート造で耐震性を高めるため、一開口型の構造とし、開口部は建物の基礎鉄骨に溶接固定された鉄製の柵で補強されている。そして、建物の内部は小さく内区画を設け建物の強度を高めている。
(3) ゾウ舎は一頭ずつチェーンにより係留して確保し、さらに二重扉で遮断し、その上フェンスで防護する型となつており、サイ舎も内区画は一、二頭ずつ分けて多数頭が一度に動くことがないように配慮されているほか、動物舎の周囲には外柵と同様のフェンスが設置されている。
(4) 外柵は全部で五種類あるが、いずれも静的解析により東海大地震(マグニチュード8、地上加速度四〇〇ガルと想定されている)によつて加えられる外力の二倍以上の耐力を有するように設計されている。また、動的解析により①「八戸」波(規模の大きい地震が比較的遠距離で起こつた場合の地震波の特色を有するいわゆる長距離型)、②「エルセントロ」波(中程度の地震が比較的近距離で起こつた場合の地震波の特色を有するいわゆる短周期型)、③「平均応答スペクトル」(日本で起こり得る地震の平均的な周期特性を有する)のいずれの型の揺れと、それによる増幅によつて生じる変位にも耐えられるように設計されている。
(5) 昭和五五年二月に実施した実物水平載荷試験によれば、各タイプのフェンスに設計水平震度0.02の三倍の外力(四〇〇ガルの地震加速度を受けたときの荷重の約一・五倍に相当)を加えても、当該フェンスのポール・ネットの損壊は全くなかつたし、コンクリート基礎の変位も極くわずか(Aタイプのもので、水平方向一・七ミリ、鉛直方向〇・一四ミリ)であつたことが確認されている。
以上の事実を認めることができ、これらの事実によれば、フェンスを含めた構造物について、その耐震性が十分でないということができず、右認定に反する〈証拠〉は採用することができない。
(三) 防災対策
〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 被告動物公園は大規模地震特別措置法により地震防災応急計画の作成が義務付けられており、静岡県の「作成指針」に則り、その指導を受けて、昭和五五年四月七日、被告動物公園は「地震防災計画」(乙第二七号証)を作成し施行している。
(2) 大規模地震の警報が発令された場合、右応急計画に基づき、営業中の場合には観覧客の入園を直ちに中止する一方、入園客を駐車場に避難誘導し、その避難収容後、動物をセクション別に動物舎へ収容することとされている。夜間の場合、危険な動物は、すべてその体力、習性に応じた堅牢な動物舎に収容されているから逃走を防止できる態勢にある。
(3) 万一動物を収容できなかつた場合には、捕獲器、捕獲網等又は麻酔銃を使用して捕獲収容し、さらに、危険の度合いに応じて散弾銃、ライフル銃により射殺することになつている。
(4) 被告動物公園では前記応急計画に基づき、毎年二回、防災訓練を実施しており、そのうちには突発的な地震の発生も想定されている。
以上の事実を認めることができ、右の事実によれば、被告動物公園は静岡県の指導のもとで防災計画を作成し、防災訓練を毎年実施するなどしているということができる。そして、右計画を上回る強力な対策を必要とする特段の事情を認めるに足りる証拠もなく、結局、右防災対策をもつて、不十分であるとすることはできないというべきである。
3交通機能阻害
本件全証拠によるも、これを認めることはできず、かえつて、〈証拠〉によれば、被告動物公園においては、かねてから関係道路を含む所要の交通対策が樹立され、かつ実施されていることが認められる。
4請求の原因6で原告らが主張する諸環境の破壊については、右主張の諸点に伴う原告ら個々人の生命、身体への侵襲や日常生活への妨害等の具体的事実関係の主張立証が存しないところであるから、この点において既に後記人格権侵害の主張として採用し得ない。
三 法的根拠
いわゆる環境権については、その基礎となる環境の概念と範囲、権利性につき法的に不明確さを免れず、特段の主張立証もないところであるから、これをもつて、私法上の差止請求権を発生させるものとは解し難いが、公害により原告らがその生命、身体への侵襲、日常生活への妨害等人格的利益(人格権)につき、著しい侵害を被り、又は被ることが予想される場合は、被害の内容程度について具体的に主張立証する限り、その人格権に基づいて、差止め等の侵害排除を請求し得ると解するのを相当とする。
しかしながら、前認定した事実によれば、原告らにおいて、被告動物公園の営業により、種々の危惧・不安を抱いていることは認められるが、いまだ原告らの人格権を害する権利侵害とはなつていないというべきであるから、原告らの人格権に基づく本訴請求は理由がない。
四 結論
以上のとおりであつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中橋正夫 裁判官塩月秀平 裁判官久保 豊)
別表Ⅰ PH値
上流↓下流
採水年月日
56.8.12
57.2.3
57.8.18
58.2.16
58.8.24
59.2.20
59.7.18
59.11.14
採水井戸
富士急4号井
8.4
8.5
8.3
8.5
8.1
8.0
8.1
7.7
動物公園2号井
8.7
8.5
8.4
8.6
7.8
8.0
8.1
7.8
動物公園1号井
○
8.9
○
8.9
○
8.9
○
8.8
○
8.7
○
8.4
○
8.7
○
8.9
忠ちやん牧場井
8.4
8.2
8.3
8.3
8.0
7.9
8.0
8.4
須山水源
7.8
8.0
8.0
8.1
7.8
7.8
7.8
7.7
下和田水源
8.8
8.6
8.6
8.5
7.8
8.3
8.3
8.2
基準値 5.8~8.6
別表Ⅱ 一般細菌
上流↓下流
採水年月日
56.8.12
57.2.3
57.8.18
58.2.16
58.8.24
59.2.20
59.7.18
59.11.14
採水井戸
富士急4号井
0
0
0
0
0
0
0
0
動物公園2号井
1
1
0
1
0
0
0
0
動物公園1号井
0
0
0
0
0
0
0
0
忠ちやん牧場井
0
0
0
0
0
0
0
0
須山水源
0
0
0
0
0
0
0
0
下和田水源
0
0
1
0
0
0
0
0
別表Ⅲ PH値
上流→下流
採水井
富士急
4号井戸
自然動物公園
2号井戸
自然動物公園
1号井戸
忠ちやん
牧場井戸
須山水源井戸
(市営水道)
下和田水源井戸
(市営水道)
採水
年月日
56.2.3
7.6
7.6
○8.2
7.4
7.4
7.8
企業
3.1
7.7
○8.0
○8.1
7.9
7.5
7.4
県
4.9
7.6
7.6
7.8
7.6
7.4
○8.0
企業
6.16
7.6
7.6
7.8
7.6
7.4
7.8
企業
7.21
7.9
7.8
○8.4
7.8
7.5
○8.1
県
8.18
7.6
7.6
7.8
7.6
7.5
7.8
企業
9.8
7.9
○8.0
○8.2
7.7
7.5
○8.0
県
10.15
7.6
7.6
7.8
7.5
7.4
7.8
企業
11.17
○8.5
○8.8
○8.9
○8.3
○8.0
○8.3
県
12.14
7.6
7.6
7.8
7.6
7.5
7.8
企業
57.2.16
7.5
7.5
7.6
7.5
7.4
7.8
企業
4.26
7.6
7.6
○8.0
7.6
7.5
7.8
企業
5.13
7.2
7.7
○8.0
7.8
7.8
7.9
県
6.1
7.6
7.6
○8.0
7.6
7.5
○8.0
企業
7.13
6.9
7.7
7.6
7.7
7.6
7.8
県
8.26
7.6
7.8
○8.2
7.6
7.5
○8.0
企業
9.9
6.7
7.1
6.9
7.2
7.2
7.6
県
10.5
7.6
7.6
7.8
7.5
7.2
7.8
企業
11.9
○8.1
○8.2
○8.5
7.6
7.5
7.5
県
12.7
7.6
7.6
○8.0
7.6
7.5
7.8
企業
58.1.6
○8.1
○8.2
○8.2
7.7
7.4
○8.2
県
2.28
7.6
7.6
7.8
7.5
7.8
7.8
企業
3.3
○8.0
7.9
○8.4
7.9
7.6
7.6
県
4.14
7.6
7.6
7.8
7.5
7.4
7.8
企業
5.16
7.9
7.8
○8.0
7.9
7.8
○8.1
県
7.12
7.6
7.7
7.9
7.6
7.3
7.6
県
8.22
7.5
7.6
7.9
7.5
7.4
7.9
企業
10.2
7.6
7.6
○8.0
7.6
7.4
○8.0
企業
11.14
7.2
7.1
○8.4
6.5
7.7
6.9
県
12.5
7.6
7.6
7.8
7.5
7.4
7.7
企業
59.2.7
7.8
7.8
○8.0
7.6
7.5
○8.0
企業
3.12
7.8
7.8
○8.3
7.7
7.5
7.7
県
4.3
7.6
7.6
7.9
7.5
7.4
7.8
企業
5.16
7.9
7.9
○8.2
○8.0
7.8
7.9
県
6.5
7.7
7.8
○8.0
7.6
7.5
7.9
企業
7.9
7.6
7.9
○8.0
○8.0
7.6
7.3
県
8.9
7.3
7.6
7.9
7.5
7.5
7.9
企業
11.5
7.8
7.8
○8.0
7.6
7.6
7.9
企業
11.13
○8.2
7.9
○8.5
7.6
7.7
○8.0
県
12.3
7.6
7.8
7.8
7.6
7.5
7.9
企業
別表Ⅳ 一般細菌
上流→下流
採水井
富士急
4号井戸
自然動物公園
2号井戸
自然動物公園
1号井戸
忠ちやん
牧場井戸
須山水源井戸
(市営水道)
下和田水源井戸
(市営水道)
採水
年月日
56.2.3
0
1
0
0
0
0
企業
3.1
0
0
4
0
0
0
県
4.9
0
0
0
0
0
0
企業
6.16
0
2
4
0
0
0
企業
7.21
0
0
0
0
0
0
県
8.18
0
0
0
0
0
0
企業
9.8
0
0
0
0
0
0
県
10.15
0
0
0
0
0
0
企業
11.17
0
4
0
0
0
0
県
12.14
0
2
0
0
0
0
企業
57.2.16
0
0
0
0
1
0
企業
4.26
0
0
1
0
0
0
企業
5.13
0
0
0
0
0
0
県
6.1
0
0
0
0
0
0
企業
7.13
0
0
2
0
0
0
県
8.26
0
0
0
0
0
0
企業
9.9
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0
0
0
0
0
県
10.5
2
0
0
0
1
1
企業
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0
0
0
0
0
0
県
12.7
0
1
1
0
0
0
企業
58.1.6
0
0
0
0
0
0
県
2.28
0
0
0
0
0
1
企業
3.3
0
0
0
0
0
0
県
4.14
0
0
0
1
0
0
企業
5.16
0
0
0
0
0
0
県
7.12
0
0
0
0
0
0
県
8.22
0
1
0
1
1
16
企業
10.2
0
0
0
0
0
0
企業
11.14
0
0
9
0
0
0
県
12.5
0
0
1
1
0
0
企業
59.2.7
0
0
0
0
0
1
企業
3.12
0
0
0
0
0
0
県
4.3
0
0
0
0
0
1
企業
5.16
0
0
0
1
0
0
県
6.5
0
0
0
0
0
2
企業
7.9
0
0
0
0
0
0
県
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1
0
0
0
0
企業
11.5
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1
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3
3
0
企業
11.13
0
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0
0
0
0
県
12.3
0
1
2
1
0
0
企業